【主体性保育とは?】元園長が解説|定義・メリット・環境設定の基本

主体性保育って具体的にどんな保育なの?
子どもたちのために良いとは思うけど、難しそう……
主体性を引き出すには、どんな環境設定にするの?

その疑問やお悩み、わかります
この記事では、主体性保育の具体的な姿から実践のヒント、そして気になる「環境設定の基本」まで、元園長の私が分かりやすく解説します
一緒に不安を解消していきましょう。
こんにちは。
保育士として10年間、そのうち4年間は0歳から2歳児を対象とした保育園で園長を務めたわら先生です。
経験を通して、子どもたちが本来持っている「自分でやりたい!」「知りたい!」という素晴らしい力を、いかに引き出し育んでいくか、その大切さを日々実感してきました。
この記事では、【主体性保育とは?】という基本的な問いに真正面からお答えするとともに、元園長としての視点から、その定義、メリット・デメリット、そして実践に不可欠な「環境設定の基本」まで、わかりやすく解説していきます。
- 主体性保育の定義
- 自主性との違い
- 主体性保育のメリットデメリット
- 環境設定のポイント
- 具体的な関わり方
この記事を読み終える頃には、主体性保育への理解が深まり、明日からの保育や子育てに活かせる具体的なヒントが見つかるはずです。
1.主体性保育とは?~「自主性」との違いもスッキリ~

まず、多くの方が抱く最初の疑問「主体性保育って何?」から解説していきましょう。
子どもが自ら興味や関心を持った対象に、自分の意思で考え、選び、試行錯誤しながら関わっていく過程を最も尊重する保育です。
大人が予め決めた活動を全員で行うのではなく、子ども一人ひとりの内から湧き出る「やってみたい」という思いを起点とし、それを実現できるような環境の中で、保育者は子どもを見守り、時にはそっと援助する役割を担います
「主体性」と「自主性」、どう違うの?
よく似た言葉に「自主性」がありますが、これらは少し意味合いが異なります。元園長として、この違いは保育を考える上でとても大切だと感じています。
- 自主性: 決められたことや目標に対して、自分から進んで取り組む力。「先生、私がお手伝いします!」と申し出るような、積極的な姿勢を指します。
- 主体性: 活動の目的や方法、時にはゴールそのものから自分で考え出し、周囲にも働きかけながら、より深く創造的に取り組んでいく力。例えば、「雨上がりのお庭で大きな水たまりを見つけた子どもたちが、『ここで船を浮かべたい!』と考え、葉っぱや木の枝を集め、どうすれば沈まないか工夫しながら遊びを発展させる」といった姿は、まさに主体性の表れです。
主体性保育とは、この「主体性」を特に大切にし、子どもたちが自らやってみたいと、好奇心・探求心を感じ、創造していく力を育むことを目指します。
なぜ今、主体性保育が重要視されるのか?
変化が激しく、予測困難な現代社会においては、誰かに指示されたことをこなすだけでなく、自ら課題を見つけ、考え、解決していく力が求められています。
主体性保育は、まさにこの「生きる力」の土台を乳幼児期から育むものと言えるでしょう。
2.主体性保育の「ねらい」と保育所保育指針における位置づけ

主体性保育は、ただ子どもを自由に遊ばせるだけではありません。明確な「ねらい」があり、それは国の定める「保育所保育指針」とも深く関連しています。
- 自己肯定感の育成: 自分の考えや行動が認められる経験を通して「自分は自分でいいんだ」という感覚を育む。
- 意欲と探求心の醸成: 「もっと知りたい」「やってみたい」という知的好奇心を刺激し、物事に積極的に関わる意欲を引き出す。
- 思考力・判断力・表現力の向上: 自分で考え、判断し、それを多様な方法で表現する力を養う。
- 社会性と協調性の発達: 友達との関わりの中で、協力したり、時にはぶつかり合ったりしながら、共に活動する喜びや難しさを学ぶ。
- 問題解決能力の獲得: 遊びや生活の中で直面する様々な課題に対し、自分で工夫し解決しようとする力を育てる。
保育所保育指針との関連
保育所保育指針には、主体性保育の考え方が随所に盛り込まれています。
特に「保育の目標」や「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」、そして「環境を通して行う保育」といった項目は、主体性保育の理念と強く結びついています。
例えば、「10の姿」の中の「思考力の芽生え」では、
「物事の性質や仕組みなどを感じ取ったり、気付いたりし、考えたり、予想したり、工夫したりするなど、多様な関わりを楽しむようになる」
と記されています。これは、主体的な活動の中でこそ育まれる姿です。
保育者は、子どもたちがこのような姿に向かえるよう、環境を整え、適切な援助を行うことが求められます。
3.主体性保育のメリットとデメリット(課題と対策)を深掘り解説

主体性保育には多くの素晴らしいメリットがありますが、実践する上での難しさや課題もあります。元園長として現場で感じてきた両側面を、対策と共に解説します。
主体性保育のメリット
- 子どもの目が輝く!内発的な意欲の向上: 「やらされる」のではなく「やりたいからやる」という気持ちは、子どもの活動への集中力や持続力を高めます。
- 「自分はできる!」自己肯定感の高まり: 自分の考えで行動し、試行錯誤の末に達成感を味わう経験は、自信に繋がります。
- 考える力・創り出す力の育成: 決まった答えのない遊びの中で、子どもたちは柔軟な発想力や問題解決能力、創造性を育みます。
- コミュニケーション能力の向上: 友達と協力したり、自分の思いを伝えたりする中で、自然と社会性が身につきます。
主体性保育のデメリット(課題と対策)
課題1:活動の見通しが立ちにくい、一斉活動とのバランス
子どもの興味が多岐にわたるため、保育者としては計画通りに進まないことも。
課題2:安全管理へのより一層の配慮
自由な活動が増える分、保育者の予期せぬところで危険が生じる可能性も。
課題3:成果が見えにくい、評価の難しさ
一斉製作のように目に見える成果物が少ないため、保護者に活動内容や子どもの成長を伝えにくいと感じることも。
課題4:保育者の専門性や力量が問われる
子どもの興味を的確に捉え、適切な環境を用意し、個々の発達に応じた援助をするには高い専門性が必要です。

4.【重要ポイント】主体性保育における「環境設定の基本」を解説

主体性保育を成功させる鍵は、何と言っても「環境設定」にあります。
子どもたちが「やってみたい!」という気持ちを存分に発揮できるような環境とは、どのようなものでしょうか。
ここでは、その基本を「人的環境」と「物的環境」に分けて解説します。
なぜ環境設定が重要なのか?
子どもは環境との関わりを通して学び、成長します。
魅力的な環境は子どもの好奇心を刺激し、主体的な活動を引き出します。
環境設定が整っていない場合、子どもたちの中には遊びに入り込めないことも増えてきます。
人的環境の基本:安心できる関わりの中でこそ主体性は育つ
- 受容的な姿勢と共感: 子どものありのままの姿や気持ちを受け止め、「そうなんだね」「嬉しいね」と共感的に関わることが、安心感の土台となります。
- 見守る保育の実践: すぐに手や口を出すのではなく、子どもが自分で考え、試行錯誤する時間と空間を保障します。「待つ」ことも保育者の大切な役割です。
- 適切な問いかけと励まし: 「どうしたらいいと思う?」「次はどうしてみたい?」といった問いかけで子どもの思考を促したり、「がんばってるね」「もう少しだね」と励ましたりすることで、挑戦する意欲を支えます。
- モデルとしての保育者: 保育者自身が楽しんで活動に取り組む姿や、探求する姿は、子どもにとって良い刺激となります。
物的環境の基本:子どもの「やってみたい!」を引き出す仕掛け
- 多様で魅力的な素材・遊具の用意:
- 自然物(葉っぱ、木の実、石、水、砂、泥など)、廃材(段ボール、空き箱、布など)、絵の具、粘土、ブロックなど、子どもが自由な発想で扱えるものを豊富に用意します。
- 決まった遊び方しかない完成された玩具よりも、多様な使い方ができるシンプルなものが、子どもの創造性を刺激します。
- 子どもが自分で選び、扱いやすい配置:
- おもちゃや素材は、子どもの目線や手の届く高さに、種類ごとに分かりやすく収納します。子どもが自分で選び、使った後に片付けられるような工夫が大切です。
- 活動に集中できるような、落ち着いた空間(コーナー保育など)を作ることも有効です。
- 試行錯誤できる余白のある空間:
- 「こうしなさい」という完成形を提示するのではなく、子どもが自分で考え、作り変えていけるような「余白」を残した環境を意識します。
- 時には、床に大きな紙を広げて自由に絵を描いたり、部屋全体を使ってダイナミックな遊びができるような変化も取り入れましょう。
- 安全への配慮と挑戦できる環境のバランス:
- 安全であることは大前提ですが、過保護になりすぎず、子どもが適度に挑戦できるような環境も大切です(例:少し高さのある巧技台、自分で組み立てる遊具など)。保育者の見守りのもとで、子どもが「できた!」という達成感を味わえるような機会を提供します。
5.主体性保育を実践する上で「本当に大切なこと」~元園長からのメッセージ~
これまで様々な側面から主体性保育について解説してきましたが、最後に、私が最も大切だと感じていることをお伝えします。
それは、「子どもの可能性を信じる心」です。
子どもたちは、私たちが思っている以上に、自分で考え、行動し、学ぶ力を持っています。その力を信じ、可能性を最大限に引き出そうとする姿勢が、主体性保育の根幹にあると私は考えています。
- 子どもの「やってみたい!」という心の声を聴くこと。
- すぐに結果を求めず、子どものペースで試行錯誤する過程を温かく見守り、「待つ」こと。
- 保育者自身も学び続け、子どもと一緒に成長していく喜びを感じること。
まとめ:主体性保育で最も大切な3つのこと

今回の記事では、主体性保育とは?・定義・メリット・デメリット・環境設定の基本について解説してきました。
✅ 1.主体性保育は、子どもの「やってみたい!」が全ての出発点。
内なる声に耳を澄まし、尊重しましょう
✅ 2.安心できる「環境」が、子どもの探求心を育む。
人的・物的両面から、挑戦できる土台を整えましょう
✅ 3.保育者は「教える」より「支える」名サポーター。
子どもの力を信じ、見守り、寄り添いましょう)
主体性保育は、決して特別なことではなく、子ども一人ひとりが持つ素晴らしい力を信じ、それを丁寧に育んでいく保育です。
確かに実践には難しさもありますが、それ以上に、子どもたちが生き生きと活動し、自ら成長していく姿を間近で見られる喜びは計り知れません。
この記事でお伝えした基本が、皆さんの保育において、子どもたちの主体性を育むための一歩を踏み出すきっかけとなれば、元園長としてこれほど嬉しいことはありません。
主体性保育の世界は奥深く、まだまだお伝えしたいことがたくさんあります。
今後の記事では、具体的な遊びのアイデアや、さらに踏み込んだ環境構成の工夫、多様な声かけのバリエーションなどについても詳しくご紹介していく予定です。
ぜひ、そちらも楽しみにしていてくださいね!